クリエイター鼎談
本作の脚本・演出家にして、発案者の一人でもある西川大貴。もう一人の発案者である、シーエイティプロデュースの取締役プロデューサー、江口剛史。そして江口から託され、今作でプロデューサー・デビューを果たす七字紗衣。『(愛おしき)ボクの時代』のキーパーソン3人が、企画意図から日本演劇界への熱い思いまで、ディープに語り尽くします!
聞き手・構成/町田麻子
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プロジェクト仕掛け人による本音のクロストーク!
【Vol.4】作品力で勝負できる作品を
――日本でWキャスト制度が浸透しているのは、片方に何かがあった時のためにというだけでなく、二人いることで倍の観客が見込めるという狙いもあってのことかと思います。つまり日本には、それだけ"作品"ではなく"役者"を観に行っているファンが多いという現状があるわけですが、それを変えたいという思いはお持ちですか?
江口 それはもう、明確に。誤解のないように言っておくと、力のあるキャストやスターはもちろん大切なんですよ。でもそれは、作品から生まれるべきものだと思う。「あの人が出てるから観たい」ではなく、「あの作品をあの人で観たい」と思ってもらえる、作品力で呼べる作品をつくりたいんです。だから今回は、名のある人が出ていなくてもいいと思って、全役オーディションの形をとりました。力のある人が揃いましたから、このなかからスターが生まれることを夢見ています。
西川 日本に作品じゃなく役者で呼ぶ文化があるのは、多分昔からだと思うんですよ。だから僕は、それを否定するつもりは全くないんですが、これもさっきの洋画と邦画の話と同じで、両方あっていいんじゃないかと。でもそのなかで、今回目指すのは作品力で呼ぶ作品だっていう点では、僕も江口さんと同じ意見です。役者で呼ぶ文化の背景には、作品が出来上がっていないなかでは、作品力より役者でアピールしたほうがお客さんに届きやすいっていうのもあるのかもしれないですけど、今はYouTubeやSNSもありますからね。音源をアップすることとかで、作品力をアピールしていけたらと思います。
七字 日本で演劇をもっと身近なものにしていくためには、役者よりも作品力で勝負できる作品をつくっていくべきだと、私も思っています。
江口 話が逸れてしまうけど、演劇を身近なものにするためには、やっぱり行政の力が必要だと僕は思いますよ。日本のミュージカルが海外産の作品や役者の人気に頼らざるを得ないのも、そうしないと興行として成り立たないから。行政のバックアップがあれば、作品力で勝負するオリジナル・ミュージカルづくりはもっと盛んに行われていると思います。
七字 そもそも日本には、演劇が学べる国公立大学がないですもんね。それでは良い役者もクリエイターも育たなくて当たり前だと思いますし、それも私が演劇が文化として認められていないと常々感じている理由のひとつです。
――2021年には兵庫に専門職大学ができるようなので、そこが良い人材が育つ場になったらいいですよね。
西川 講師陣が気になりますよね。僕は立教大学現代心理学部の出身なんですけど、心理学部といっても映像身体学科という、実際に映像を撮ったりダンスを学んだりもする学科にいたんです。映画監督の黒沢清さんとか、ダンサーの勅使川原三郎さんの授業もあってすごく面白かった。
江口 ブロードウェイとかロンドンの役者はみんな大学で演劇を学んでいて、歌もダンスもできる状態でプロの世界に入りますからね。ただ、せっかく大学で良い人材が育っても、卒業生が役者として食っていけないんじゃ仕方ないわけで。
七字 そうですよね。イギリスのように、国立の演劇大学を出て、国立の劇団に就職できる道が日本にもできるといいなと思います。
江口 それはこちら側が考えるべき問題でもあると思って、今回のキャストの皆さんには、きちんとしたギャランティをお支払いすることにしています。「自慢するほどの額じゃないよ」って言われちゃうかもしれないけど(笑)、少なくともアルバイトはしなくて済むように。
西川 それは大きいです。毎朝アルバイトをしてから本番の舞台に立って、良い芝居しろ!ってなかなかハードル高いですからね。
江口 大学も劇団も公演製作も、行政からのバックアップを願いつつ、まずは民間の僕たちで頑張っていきます、というところですね。僕が逸らしてしまったので、元の作品力の話に戻しますが、先日ロンドンに行った時、『ジーザス・クライスト=スーパースター』のリバイバル版を観たんです。50年も前につくられた作品に新たな命が吹き込まれているのを観て、言葉がなくなるくらい驚いた。"50年耐えられる作品"というのが実在することを目の当たりにしましたので、今回もそれくらいの力を持った作品を目指したいと思っています。
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Producers' profile
◎江口剛史(えぐちたけし)
1958年生まれ。2001年設立当初より、シーエイティプロデュース企画・製作のほぼ全ての公演にてプロデューサーを担う。そのジャンルは翻訳作品からオリジナル、ストレートプレイ、ミュージカル、ノンバーバルパフォーマンスや落語までと多岐に渡り、現在では年間十数本の作品を企画し続けている。主な製作作品に、『BACKBEAT』『Defiled』『黄昏』『6週間のダンスレッスン』『BLUE/ORANGE』『W3』『フロッグとトード』『Forever Plaid』『さくら色オカンの嫁入り』『今は亡きヘンリーモス』など。また、製作作品による主な受賞歴に、第二十二回読売演劇大賞優秀作品賞(『ヒストリーボーイズ』)、第五十一回紀伊國屋演劇賞団体賞(『End of the RAINBOW』『クレシダ』『テイクミーアウト』の優れた舞台成果に対して)がある。
◎七字紗衣(しちじさえ)
1989年生まれ。日本大学芸術学部演劇学科卒業後、同大学助手勤務を経て、2015年シーエイティプロデュースに入社。携わった主な作品に、『スポケーンの左手』(2015)、『MURDER for Two』『クレシダ』(2016)、『CRIMES OF THE HEART―心の罪―』(2017)、『ぼくの友達』『マクガワン・トリロジー』『新・6週間のダンスレッスン』(2018)(以上、制作)、『ソーホー・シンダーズ』(2019)(アシスタント・プロデューサー)など。