クリエイター鼎談
本作の脚本・演出家にして、発案者の一人でもある西川大貴。もう一人の発案者である、シーエイティプロデュースの取締役プロデューサー、江口剛史。そして江口から託され、今作でプロデューサー・デビューを果たす七字紗衣。『(愛おしき)ボクの時代』のキーパーソン3人が、企画意図から日本演劇界への熱い思いまで、ディープに語り尽くします!
聞き手・構成/町田麻子
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プロジェクト仕掛け人による本音のクロストーク!
【Vol.3】プレビュー公演とスウィング制度
――今の日本人の感覚で創作することで、多くの日本人が持つミュージカルのイメージを変え、ゆくゆくは海外進出も目指すことがチャレンジの"目的"であることがよく分かったところで、次はチャレンジの"方法"についてお聞かせいただければと思います。
江口 ひとつはやはり、本公演の前にプレビュー公演を、2期に分けて行うことですね。1期目から2期目、2期目から本公演の間にそれぞれ4日間と3日間の休演日がありますから、そこでお客様や演者の感想を汲み取ってブラッシュアップすることができます。
西川 これも素晴らしいことだと思います。商業的な公演では、役者もスタッフもモヤモヤを抱えたなかでバタバタと初日を開けて、解決しないまま体が慣れてしまって、そのまま千秋楽まで突っ走ってしまうことがないとは言えません。休演日を使って劇場で稽古ができたらもっと良くなるのに、と思うことはよくあるので、それが叶って本当に嬉しいです。
江口 そこでの変化が目に見えるものになるのか、粗削りだったものが滑らかになる程度なのかは分からないけれど、まずはやってみようということですね。3日じゃ足りない可能性は十分あるし、逆に「直す必要ないじゃん!」ということもあるかもしれないし(笑)。
西川 それはないと思いますけど(笑)、"百万が一"直すことがなかったとしても、その時間はスウィング稽古にあてればいいから無駄には絶対ならない。
江口 そうですね。西川さんの発案でスウィング制度を導入したことも、2期のプレビューと並ぶ今回のチャレンジ。日本では馴染みがないと思いますが、海外では各役にアンダースタディ(代役)がいるほかに、複数の役をいつでも務められるよう準備しているスウィングというポジションの人がいます。誰かがケガをしたりした場合、日本ではWキャストのもう一方が対応することが多いですが、そうじゃない方法もあるのではないかと。
西川 役者の立場からすると、調子が悪いと思っても、代わってもらえるのがWキャストの人しかいないと言い出しづらいんですよね。それで限界まで我慢して結局ケガをしてしまうことがあるんですが、専用のポジションの人がいたら、ケガをする前に気軽に言い出せる。今回は1か月公演で、タップもあるので必要だと思いました。
――スウィング制度自体は『ミス・サイゴン』などでも導入されていますが、今回はそのスウィングがキャストではなく、スタッフとして扱われていることに驚きを覚えました。
西川 僕自身が『ミス・サイゴン』などスウィングが導入されている作品に携わったり、カバーキャストを経験したりしたなかで、スタッフとして割り切っていたほうがやりやすいことに気付いたんですよ。キャストの意識って"役を全うする"ことにあるから、稽古しても演じる機会がないかもしれない代役だとモチベーションを保つのが難しいんですけど、クリエイティブスタッフとしての参加だと"公演を全うする"ことが仕事になるから、自分の存在によって公演が成立することに喜びを感じられると思うんです。今回スウィングに選んだ3人は全員クリエイター経験があって、僕と同じように、そこにやりがいを感じられるタイプの人たちだと思います。
七字 補足しておくと、今回はトライアウト公演ということで、「キャストとスウィングが交替しても公演が成り立つのか」という点もまた"トライ"したいという意図のもと、スウィングの方の出演回を必ず設けることにしています。ただ、本来はもしもの時に、急に対応するのがスウィング。"トライ"をより現実的なものにするために、3名が5~6役ずつをカバーしているなかで、どの回にどの役で出演するかを前もって決めることはしていません。
西川 そこは公演が始まってから、様子を見て決めていきます。公演を成立させる基準点を例えば80点とすると、ひとつの役の100点を目指すのがキャストで、複数の役の80点以上を目指すのがスウィング。職業が違うから、海外にはスウィングしかやりたくないっていう人もいるくらいなんですよ。
江口 基本的には本役がやって、もしもの時のために代役やスウィングがいる、それがロングラン公演の本来あるべき姿ですよね。もちろんWキャストの面白さっていうのはあると思うし、作品によっては企画としてそういうことが必要な時もあるけれど、作品のクオリティを安定させるためにはやっぱりシングルキャストが原則だと、僕は思います。今回の作品は、トライアウト公演のあとには100回、200回単位のロングランをしたいと思っていますから、トライアウト公演でその体制づくりができたら、というところですね。
七字 もしもの時のためにいるはずのスウィングが必ず出ることになっていて、しかも事前発表はしないという今回のやり方は、お客様にとっては必ずしも歓迎できるものではないかもしれません。でもそれも含めてトライアウトということで、まずは試させていただければと思っています。
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Producers' profile
◎江口剛史(えぐちたけし)
1958年生まれ。2001年設立当初より、シーエイティプロデュース企画・製作のほぼ全ての公演にてプロデューサーを担う。そのジャンルは翻訳作品からオリジナル、ストレートプレイ、ミュージカル、ノンバーバルパフォーマンスや落語までと多岐に渡り、現在では年間十数本の作品を企画し続けている。主な製作作品に、『BACKBEAT』『Defiled』『黄昏』『6週間のダンスレッスン』『BLUE/ORANGE』『W3』『フロッグとトード』『Forever Plaid』『さくら色オカンの嫁入り』『今は亡きヘンリーモス』など。また、製作作品による主な受賞歴に、第二十二回読売演劇大賞優秀作品賞(『ヒストリーボーイズ』)、第五十一回紀伊國屋演劇賞団体賞(『End of the RAINBOW』『クレシダ』『テイクミーアウト』の優れた舞台成果に対して)がある。
◎七字紗衣(しちじさえ)
1989年生まれ。日本大学芸術学部演劇学科卒業後、同大学助手勤務を経て、2015年シーエイティプロデュースに入社。携わった主な作品に、『スポケーンの左手』(2015)、『MURDER for Two』『クレシダ』(2016)、『CRIMES OF THE HEART―心の罪―』(2017)、『ぼくの友達』『マクガワン・トリロジー』『新・6週間のダンスレッスン』(2018)(以上、制作)、『ソーホー・シンダーズ』(2019)(アシスタント・プロデューサー)など。