クリエイター鼎談
本作の脚本・演出家にして、発案者の一人でもある西川大貴。もう一人の発案者である、シーエイティプロデュースの取締役プロデューサー、江口剛史。そして江口から託され、今作でプロデューサー・デビューを果たす七字紗衣。『(愛おしき)ボクの時代』のキーパーソン3人が、企画意図から日本演劇界への熱い思いまで、ディープに語り尽くします!
聞き手・構成/町田麻子
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プロジェクト仕掛け人による本音のクロストーク!
【Vol.2】選択肢を増やすためのチャレンジ
――オリジナル・ミュージカル自体が珍しいわけではない、というお話がありましたが、やはり翻訳ものに比べると、圧倒的に数は少ないように思います。敬遠される理由と、それでもつくるべき理由について、皆さんのお考えをお聞かせください。
江口 難しい理由は、ひとつにはさっきも言った通り、先が読めないこと。台本がないと、そもそもキャストの数が分からないし、プレゼンもしづらくなります。それとやっぱり、海外でヒットしたものの作品力ですよね。これはもう、段違いに高いと思う。そうは言っても、日本の土壌に合わないことや腑に落ちないことが出てくることは当然あって、翻訳ものだけでは限界があると感じていることが、それでもつくりたいと思う理由です。
西川 向こうの作品のほうがクオリティが高いって点も、限界を感じてるって点も、本当にそうだなという感じです。今はミュージカルがブームで、認知度も高まっていて、ミュージカルという文化が成熟しつつあるからこそ限界が見えてきた。役者が"外国人になる"っていう役作りの前段階の作業をしたり、役者も観客も完璧には理解しきれない"文化の違い"などにぶつかったりすることのない、日本人にフィットした作品も必要と感じます。そのためには、「オリジナル作品をつくる」こと自体を目標にしてはいけない気がしていて、だから僕のなかでは、「良い作品をつくりたい」って思いのほうが圧倒的に強いですね。
江口 その通りだと思います。良い作品をつくれば、ゆくゆくはそれが海外で上演される可能性だってあると思うし、今回もそれを目指したい。今は世界が縮まってきてるから、決して夢ではないと思うんですよ。これはミュージカルではないけれど、『キサラギ』というコメディを2010年にロサンゼルスに持っていった時、ものすごい笑いと、拍手が止まらなくなっちゃうくらい熱い反応をいただいたんです。日本の文化とか日本人の感覚は理解されないって、決めてかかる必要はない気がしますね。
西川 東京オリンピックもあったりして、現代の日本人の感覚に興味を持ってる外国人って増えてますもんね。実は江口さんに焼き鳥屋に誘われる1か月前くらいに、ちょうどダレンともそんな話をしてたんですよ。外国人にとっての日本って、昔はそれこそSAMURAIとかSUSHIだったかもしれないけど、今は海外ナイズされたファッションとか音楽が注目を集める時代。例えば竹内まりやさんの「プラスチック・ラブ」が、海外で大ブームを起こしたりしていますよね。海外から入ってきて日本ナイズされたものが持つ、ちょっとした違和感とかナンセンス感が、向こうの人からすると面白いんだと思うんですよ。そう考えると、日本人がミュージカルをやるってこと自体が、決して悪い意味じゃなくナンセンスでシュール。そういう“今の日本”らしいことを、今回やれたらと思っています。
江口 出来上がった台本、ナンセンスでクレイジーだもんね(笑)。海外の王道ミュージカルとは全然違って、ハチャメチャで楽しいところが大好き。僕たちだけじゃなく、東洋の血を持ったオーストラリア人であるダレンさんのフィルターも介してブラッシュアップすることで、海外にも持って行ける作品になるんじゃないかと期待しています。
――なるほど、"今の日本"と世界の関係性のなかでつくるオリジナル作品であることが、今回のポイントのひとつなのですね。話が戻ってしまいますが、オリジナル・ミュージカルの難しさと意義について、七字さんのご意見もお聞かせいただけますでしょうか。
七字 お二人が言われたことと同じなのですが、クオリティが確かな海外作品が溢れるなかで、国内の作品にまで需要が行き届かないのかなとは思います。また、ひとつ付け加えることがあるとしたら…ちょっと話が飛躍してしまうんですが、そもそも日本では演劇って、文化として浸透していないと私は思うんです。一部の人たちの高尚な趣味と思っている方がたくさんいて、実際私も、「演劇の仕事をしてる」と言うと「すごいね!」みたいに言われたりしますし。つくる側も観る側も、その頭数が少ない。それには様々な原因があると思いますが、演劇が日本人にとっても、もっと身近なものになればと思いますし、そうすれば様々な需要も生まれてオリジナル作品も増えていくのではないかなと。自分の生活とかけ離れすぎているから敬遠しているような方がいるなら、そういった方にも届くような日本の物語も増えていってほしいなと思います。
西川 分かります、両方あったらいいですよね。映画には、"洋画を観たい気分"と"邦画を観たい気分"の時、それぞれに応じた選択肢があるけど、今のミュージカルにはそれがない。ミュージカル=青い目をした王子様が出てくる浮世離れしたもの、というイメージを持ってる人もたくさんいると思います。いきなり状況を変えることはできなくても、身近なミュージカルをつくるチャレンジを続けていけば、いつか映画みたいになるんじゃないかな。
江口 舞台ではないけど、矢口史靖監督が『ダンスウィズミー』っていうミュージカル映画をつくったのも、素晴らしいチャレンジですよね。僕はまだ観てないんだけど、同じ監督の『ハッピーフライト』を観た時、飛行機のパニックものを日本でやるとこうなる!というところに持っていく力がすごいと思った。爽快感もあって、大好きな映画です。
西川 『ダンスウィズミー』は、「とても面白かった!」という感想がある一方で、ミュージカルファンからは「バカにされてる感覚を得た」という感想もあるみたいですね。僕はそれこそ、ミュージカル=浮世離れしたものっていうイメージが無意識に刷り込まれているからだと思うんですよ。つまり、現状ではその前提を逆手にとった設定にするしか、大多数の日本人に訴える術がない。その前提が変わっていけば、ミュージカルができることはもっともっと増えていくと思います。
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Producers' profile
◎江口剛史(えぐちたけし)
1958年生まれ。2001年設立当初より、シーエイティプロデュース企画・製作のほぼ全ての公演にてプロデューサーを担う。そのジャンルは翻訳作品からオリジナル、ストレートプレイ、ミュージカル、ノンバーバルパフォーマンスや落語までと多岐に渡り、現在では年間十数本の作品を企画し続けている。主な製作作品に、『BACKBEAT』『Defiled』『黄昏』『6週間のダンスレッスン』『BLUE/ORANGE』『W3』『フロッグとトード』『Forever Plaid』『さくら色オカンの嫁入り』『今は亡きヘンリーモス』など。また、製作作品による主な受賞歴に、第二十二回読売演劇大賞優秀作品賞(『ヒストリーボーイズ』)、第五十一回紀伊國屋演劇賞団体賞(『End of the RAINBOW』『クレシダ』『テイクミーアウト』の優れた舞台成果に対して)がある。
◎七字紗衣(しちじさえ)
1989年生まれ。日本大学芸術学部演劇学科卒業後、同大学助手勤務を経て、2015年シーエイティプロデュースに入社。携わった主な作品に、『スポケーンの左手』(2015)、『MURDER for Two』『クレシダ』(2016)、『CRIMES OF THE HEART―心の罪―』(2017)、『ぼくの友達』『マクガワン・トリロジー』『新・6週間のダンスレッスン』(2018)(以上、制作)、『ソーホー・シンダーズ』(2019)(アシスタント・プロデューサー)など。